それ行けユウちゃん!!後編
wirtten by 冬馬
「おじゃましまーす」
私はそう一礼して香里の家に入りました。中は閑散としてて人の気配がありません。お留守なんでしょうか・・・?
「あれ、けど香里出ていく時『行ってきます』って言ってた様な・・・気がします」
そう言って辺りを見渡すと、ちょうどリビングに通じる通路の片隅に、あたかも客を招き入れるかのように座っているクマさんのぬいぐるみが置いてありました。それに私と同じくらいの大きさです。
「まさか、香里・・・このクマさんに行ってきますって言ったのかな・・・?」
香里にも潜在的な可愛い物好きがあるのかもと内心不安になりながらも、今はそんな事は気にしていられないと悟り、香里に教えられた通りに、二階の香里の部屋に行くことにしました。
「よいしょっと。えーと、部屋は一番奥にあるって言ってたから・・・・・ここですね」
玄関のすぐ傍にある階段を上りきった後、そのまま進んで一番奥にある部屋の前に来ました。
『香里』と丁寧な作りだけど簡単なネームプレートが貼られてありました。あまり飾り立てない香里らしいです。
一方お隣の栞の部屋には、とても可愛らしく『しおりのへや』と貼られています。
プレートの下の余白には恐らく栞が書いたんだろうなぁ・・・と思われる抽象絵が描かれてあります。栞には悪いですが私にはこの先一生理解できそうもありません。
「おじゃまします」
一応断りを入れて、部屋に入りました。
「へぇ〜、とっても素敵じゃないですか」
綺麗に整頓された机、ゆったりできそうなソファー、そしてその上に乗っているクッション。
白いベットからは清涼感が漂ってきます。その上にいい具合に窓も設置されています。
なんでしょうか・・・名雪の部屋は色々な小物があり、それでいていろいろ賑わっていて、言わば『動』の綺麗さなんだけど、香里の部屋は小物がそんなにない、『静』な綺麗さを持っている、そんな感じで。
・・・・ふぁ〜
私があまり見ないこう言った綺麗さに見とれているうち、今までの出来事の疲れがどっと押し寄せてきました。
朝っぱらから昼にかけてずっと走りっぱなしでしたし・・・。今、やっと名雪からの恐怖も薄れてきたという事もあります。
「ふあああ〜・・・。ちょっとお昼寝、しよっと」
私はソファーに横になり、クッションを枕にしました。ちょうど心地の良い柔らかさに私の意識は急速に消えていきました。
・・・・・・・・・・。
「ただいまー。」
・・・あの声は、栞かな。帰って来たんでしょうか・・・
「うーん、誰もいないのかな。お姉ちゃん、部屋にいるのー?」
にぅぅ・・・香里は今、お買い物でいませんよー
ととと・・・・と(部屋の前に立ち止まる音)
「お姉ちゃん、寝てるの? 入るよ。」
だから、香里は買い物に・・・・て、うぇえええ!!!
がばっ!!
がちゃ
「・・・・・・・・・・えぅ・・・?」
「あ・・・・。」
栞はこっちを向いたっきり全く反応を示してません。そりゃびびると思うけど。
「・・・こんにちは、はじめまして、今日は良いお天気柄ですね、ああ、もうこんな時間、そろそろ帰らなくちゃ、失礼します。ではでは〜」
私は弾丸トークでその場を纏め上げた後、脱兎の如く脱出を試みました。
体を一気に前に倒し重力の影響を受けて傾いた後足で一気に床を蹴り栞と正面衝突するかというくらいに相対距離を詰めます
「え・・・?」
栞が呆然とする中さらにもう片方の足を前に出し方向を転換します
わずかにコースをそれた私の小さな体は栞のすぐ脇を通り抜けました。いける!!
むんず・・
「はぅっ!!」
突如、進路方向に現れたか細い腕が私を摘みました。しかもよくもまあそんな腕に力が入るなぁと思えるくらいに・・・。
腕の持ち主は・・・・栞でした。
「はぅうう、どうしてこんな可愛い子がいるんでしょうか〜。」
「わわわわっ!!!!! し、しまったですーーっ」
私は見事、栞に捕獲されてしまいました。
「に・・、し、しおりぃ。はなしを聞くんですよー。」
「可愛いですぅ・・・。」
そういって栞はずっと抱きしめたまま、私の話を聞く島もありません、うぅぅぅ・・・。
こんな時、男だったらどれだけ嬉しいんだろうな・・・ってそんな悠長なこと言ってられませんてばっ
「に・・・ぅぅ」
・・・・結構やっばいです。
栞は力こそ名雪みたいなレベルではないものの、それでも小さくなった私の体を十分に締め付けるだけの力を持ってました。
数ヶ月前の病弱な美少女はどこへ消えてしまったんでしょう?
そう嘆く私の腕には既に力が入らず。。。
薄れ行く意識の中で。。。
「あ、あいざわくん!! ちょっとしおりっ、落ち着きなさい!!!」と言う声が聞こえた。。。
「おああああっ!!!!・・・・あれ?」
「相沢君、気がついたみたいね。大丈夫・・・ではなかったようだけど、大丈夫だった?」
「え、えぅ、・・・ゆ、ゆういちさん大丈夫でしたか?」
意識が復活し、声をする方を向くと安堵の表情を浮かべる香里と罰が悪そうにこちらを向いている栞の姿があった。
「はあ、ほら、栞。ちゃんと謝っときなさい。あと少しで相沢君を絞め殺してしまうとこだったんだから」
そこまで締め付けられてたの、私・・・?
「はい・・・祐一さんごめんなさい。まさか祐一さんだとは思ってもみなくって・・・まぁ祐一さんであっても抱きつきたいってそうじゃなくて」
「結局どっちでもいいんじゃないですかー!!!」
「え、えぅぅぅ!!」
「けど相沢君も本当気をつけないといけないわよ」
「私も・・・?」
「・・・・私の事ですか? お姉ちゃん・・・」
まるでさっきの出来事を咎められているのかと思って栞は香里に話し掛けました。
「違う、全体を通してよ。今の相沢くんはね、どんな仕草でも確実に可愛いと思われてしまうと断言するわ」
「に、にぅ。そ、そんなまで言われるですか?」
「ほら、その困惑した表情、男性100人中100人は確実に可愛いと思われるし、その中でもロリやペドが入ってる奴だったら確実に襲われるわ」
香里のバックでババーン!!と効果音が入ってます。
「そ、そんな熱演する程じゃ・・・・」
「甘すぎる!! その顔、その髪、その容姿、どれを取っても襲われる価値は存分にあるわ!! ははは、出来れば私だって」
あー、あのー。香里さん?
「とにかく!!今の相沢君は四方を狼に囲まれているのにまだ気づいてない可哀相な子羊なのよ。分かる?」
「はぁ・・・・あ、はい」
いいや、これ以上香里に反論したら余計場が悪くなるような気がする・・・・。
軽く同意の返答しておきます。
「あ、そう言えば・・・」
「にぅ、栞。なにかあったのですか?」
「いや、帰ってる時に名雪さんとお会いしまして」
「な、なゆきとあったですか・・・」
「はい、びっくりしますよ本当に・・・いきなり私を発見すると『ちっちゃくなって可愛くて100%抱いてテイクアウト宜しくって言ってしまいそうで萌えでにーではわわな祐一を知らない!!!』って尋ねてきましたんで」
「・・・・それ、なんかさっきより酷くなってない?」
「・・・・はい・・・」
名雪の暴走はどんどんエスカレートしていってるみたい・・・・。
「で、知らないですと答えたら『ち、どこに潜めたかな祐一・・・ならば一つ一つ調べるまで!!』と走っていきました」
「・・・・完全にキャラ変わってます」
「トランスモード全開ね、あの子」
はぅ、頭痛がしてきます・・・。どーしてくれますこの体・・・。
「とりあえず、元に戻る方法を秋子さんから聞かないといけないわね」
「はい、でもどうやって・・・?」
「電話があるじゃないですか、今は名雪さんは外を走り回っている訳なんだし、万が一名雪さんだったとしても私かお姉ちゃんがが先にかければばれないですよ」
「は、はい。すまないです香里、栞」
「ふふ。困った時はお互い様でしょ」
「そうですよ。祐一さん」
うう、本当にいい姉妹です。人の温かみを感じつつ電話機のあるリビングに下りていきます。
トゥルルルル・・・・・トゥルルル・・・・・がちゃ
『・・・・もしもし』
「もしもし、美坂と申しますが水瀬秋子さんはご在宅なさっておられますでしょうか?」
『・・・あ、はい。香里だな。今替わるから待ってて』
「・・・・あれ」
「ん、どうかしたですか?」
「いや、今出てきた子、なんかあゆちゃんの声なんだけど、どうも言葉づかいが変で幾分か幼く聞こえて・・・・おかしいなあ」
「まあ、あゆなら基本的に無害ですからラッキーだと思う方がいいです」
「それもそうね・・・・もしもし、秋子さんですか?」
『はい、香里さん何か御用ですか?』
「あ、私ではないんですけど、はい相沢君」
「もしもし、祐一ですけど」
『あら、祐一さん。随分と可愛い声ではないですか。びっくりしましたよ』
「に、にぅ、そんなびっくりしないで下さいよ。それで色々と大変な目に遭ってるんですから」
『はい・・・本当にごめんなさい。まさかあそこまで事態が行ってしまうとは思ってもみませんでしたので。実験はもっと安全を取るべきでした』
あの、ちょっと・・・てか結構不穏な発言ですけど・・・。
「で、あの、とりあえず元の姿に戻りたいんです。このままでは命が幾つあっても足りません」
『その点は安心してください。ちゃんとワクチンもありますから』
ワクチンって・・・・・じゃあこれはウィルス扱いですか・・・・。
「・・・・ははは、じゃあ今から取りに行きます」
『あ、名雪が帰ってきたみたいです。おかえりなゆ・・・・・ゆういち!!!かけてるの祐一でしょ!!!どこにいるのっ!?』
「はぅ・・・っ!!」
がちゃん
いきおいで切ってしまいました・・・・。
「ナイスすぎるタイミングね」
「本当にナイスすぎです・・・・うぅ」
なんか、これすらも秋子さんに仕組まれていたような気がして・・・いやそれは考えすぎですよね。ねっ?
「けど、どうします? 今は名雪さんに完全に感づかれてますよ」
「そうです・・・・しかし例のワクチンを手に入れないと元に戻れないです・・・・」
「仕方ない。相沢君、こうなれば名雪の弱点をつきましょう」
「名雪の・・・・それって、何ですか?」
「伊達に名雪、『眠り姫』なんて呼ばれて無いわよ。いくら覚醒モードの名雪でも眠気は確実にやってくる訳なんだしそれを考慮して考えられるのは一つ」
「深夜・・・または明朝に仕掛けると言う事ですか?」
「ええ、そうよ。もうちょっと言うと深夜は一応女の子だけなんだから遠慮して、明朝に仕掛けないかと。秋子さんなら起きているはずだし」
「にー、分かりました。秋子さんは私よりも早く起きる上、朝ごはんの用意とかも済ませていますから恐らく相当早く起きてるに違いないです」
「じゃ、それで行きましょう。それで後で秋子さんに一応連絡だけ入れておきましょう」
「はい」
「あれ、じゃあ祐一さん。今日はウチにお泊りですか?」
「そう言う事になるわね。相沢君、気兼ねなく泊まっていってね」
「はい、本当ありがとうです」
だき
「はぅ・・・」
「はあ・・・今日は一緒に居られるんですね、祐一さん・・・・あ、また抱きついちゃいました、だ、大丈夫ですか!?」
「ううん、今ぐらいの圧迫がちょうど心地いいですよ。はぁ・・・・栞の小さい胸が当たってるです」
「む、祐一さんなんでそんな事言うんですか。そんな子にはお仕置きです」
ぐっ。
「はぅ、ちょっ・・・ちょっと辛いですっ。栞ごめんなさいっっ!!」
「だ・い・い・ち、祐一さんだってちっちゃいじゃないですか」
むに
「ひああ、な、いきなり何するですか!!」
「お返しです。ほらぺったんこじゃないですか? ゆういちさん」
「は、はぅぅぅ・・・やめてください」
「やめません。可愛いですよゆういちさん・・・・」
栞の腕が下のほうに行き・・・・・てをいぃ!!!!!これ以上はやばいですってばっっ!!!!!!
「バカ・・・・」
がつん
「えぅ・・・お姉ちゃん何するんですか?」
「あんた、本気だったの・・・。今までの?」
「もちろん冗談です。胸の事を言われたお仕置きです」
「はー、にぅ、・・・何するです」
「まあいいか・・・・今日は楽しみましょう。色々と・・・まだまだ時間はたっぷりある訳なんだし」
「・・・・・・・・・・・あれ、香里さんの目もなんか光ってるですよ・・・・」
「気のせいよ。明日は頑張りましょうね、相沢君」
「・・・・はい」
明日の問題以前に今日の今からを乗り切れるかなぁと少々心配になる私でした。
「ふあああ、眠いですぅ・・・」
「はあ、名雪に似たのかしら、朝に結構弱くなるなんてねぇ」
「別にその理由だけじゃないと思うよお姉ちゃん。・・・・・・昨日は遅くまで起きてたんだから」
私達は今、水瀬家の一歩手前のちょうど曲がり角に立ってます。
昨日の夜に秋子さんに朝の6時に向いますと連絡を告げ、今現在6時10分。
名雪ほどではありませんが少々朝に弱くなってしまったらしく、少しお寝坊してしまいました。・・・・まあ寝たのが遅かったのもあるんですけど(赤面)
「とりあえず行きましょう・・・・てうわ・・・あれ、見て」
「にー・・・? ・・・・あ・・・」
「名雪さんですね」
門の手前にちょうど、朝帰りの夫を鬼の形相で待つ妻のような感じで名雪が立っています。いや、鬼の形相ではないですけど、そんなオーラを感じます。
「ここまで来るとあの子の執念ね」
「眠気をも克服するなんて・・・・完全に失策です」
かと言ってこのまま引き下がれる訳にも行きません・・・・うぅ、どうしましょう・・・。
「私が陽動をかけてみます。その隙にお姉ちゃんと祐一さんは家に入ってください」
「けど栞、大丈夫? あの子はもうある意味敵なしよ。自らの眠気をも封じ込んだんだから」
「大丈夫です。要は隙を作ればいいんですから」
ちょっと待ってて下さいと言って栞は一人水瀬家に向います。
「ん、誰っ!!」
「あっ、名雪さん。おはよう御座います」
「あ、栞ちゃんだ。どうしたのこんな朝早くから?」
「えーと。私、最近ウォーキングにハマってまして、で朝はいつも歩いてるんですよ」
「へえー、栞ちゃんえらいねぇ。私は朝弱いし、絶対無理だよ」
「けど、今日は早起きじゃないですか?」
「うーん、早起きって言うか昨日から寝てないの、実は」
「へ? 寝てないんですか・・・」
「うん、祐一がいつ帰ってくるかで全然寝付けなくて」
「凄いわね、相沢君」
「男だったらめちゃくちゃ男冥利につきますけどね」
「・・・・全くだわ」
「そう言えば祐一さんてどんな格好してるんでしたっけ?」
「えーとね、髪が長くって、小さくって、萌え萌えで、丁寧語となんか色々な感嘆符をつけて話す女の子だよ」
「・・・・・あの、もしかして・・・・・あそこにいるのは・・・?」
「へ!! ど、どこ栞ちゃん!!!!」
名雪が飛び出した直後、後ろ手で私達を手招きします。
「今よ!!」
「はい!!」
私達は全速力で水瀬家に向って走りました。
「ねぇ、どこなの栞ちゃ・・・」
「あ、あそこですっ!! ほらあの木の陰の方っ」
必死でこっちを向かないように栞は奮闘してます。ありがとです、栞。
なんとか門をくぐり、ドアを開けました。しかし・・・
「あ、今の長くて青い髪は・・・祐一!!!」
「し、しまったです!!」
感づかれました。完全に・・・・一瞬の内に門の手前に名雪がやってきます。
「相沢君、ここは私が止めるから早くリビングへ」
玄関先で香里はこう言うと進行方向とは逆の方向を向きます、その先には名雪がいました。
「かおり。そこをどくんだお・・・」
「名雪、悪いけどここは通させないわ。行きなさい相沢君」
「香里・・・・ありがとう!!」
私は靴を脱ぎリビングへ・・・・
がちゃ
「秋子さん、秋子さん!!!」
「はい、お疲れ様でした祐一さん」
キッチンの方から声が聞こえ、そこから秋子さんがなにやら瓶を持ってきました。
「久しぶりにこのジャムを使うわねぇ」
なにやら昔を懐かしむような顔つきでその瓶の中の内容物がみます。
正直・・・・ジャムじゃないと思う
「あの、まさかそれがワクチンですか!?」
「はい、ワクチンジャムです。これを食べれば治ります」
「じゃ、じゃあ早く食べさせてください」
「はい、それでは」
「ごめんね、名雪」
がす
「う・・・・」
音のした方を向くと気絶していると思われる名雪とそれを抱えているぼろぼろの格好の香里がいました。
さらにその後ろには栞が立ってます。
「大丈夫でしたか?二人とも」
「ええ、なんとかね。最後は気絶させちゃった訳なんだけど」
「名雪さんに吹っ飛ばされました。えぅ〜、痛かったです」
と栞はいたそうにお尻をさすってます。
「ごめんなさいね、三人ともに迷惑かけちゃったみたいで」
と謝る秋子さん。
「もういいですよ、それよりワクチンジャムをお願いします」
「はい、じゃあ祐一さん。どうぞお召し上がりください」
秋子さんは瓶からジャムを一掬い掬うと、小さなお皿に盛りました。
「じゃあ・・・・・・いただきます」
かなり、というかなんかやばげな黒色のどろどろジャムでかなり食べる気は失せます。
それを我慢して口に運びます。
うぅ、三人の興味の目(主として秋子さん)が後ろから突き刺さります。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうですか?祐一さん。お味も方は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・にぅ。コメント不可能です」
なんと言うか、実に複雑な味だったりします。
と言うより確実に不味いです。思わず吐きたくなる様な感じです。けど我慢。。。これで治るんですからもういいんですけ・・・・・あれ?
「変化、ないわね・・・・」
「はい・・・・。全然・・・・」
実は全く代わってなかったりします。私の体・・・・。
「に、にぅぅぅ、ちょっ、、ちょっと秋子さん!!何でですか!? なんで戻らないんですか!?」
「実はですね・・・そのワクチンジャム効果が高すぎて何回かに分けて食べないととダメなんですよ」
「はいいいぃ!!!」
「つまり、いっぺんに食べては毒なので一回一回規定の量しか食べられないのです」
と秋子さんは心底残念そうな顔をする・・・・・「これさえなければ至高のジャムなのに・・・」とぼそぼそと言います。
「じゃあすぐには・・・」
「残念ながら・・・」
「いや、うそ・・・・・そんな・・・・・一体、いつまで食べなければいけないんですか?」
「大体効果が消えるまでは少なく見積もって短くて半年、遅くて一年以上です」
秋子さんは目を伏せてそう口にしました。
「そ、そんな・・・・」
目の前が真っ暗になってきます・・・・はぅぅ、今年はずっとこのままであのジャムを食べないといけないなんて。
「わ、私だけ・・・・そんな・・・・嫌過ぎです・・・・」
「あと、実は・・・」
「まだあるんですか秋子さん?」
香里が聞きます。もはや香里の目からは私に対する同情の眼差しがずっと向けられてます。
「いらっしゃい、あゆちゃん」
「・・・・うぐぅ」
キッチンの方からよく聞き慣れたうぐぅ声が聞こえた後、私は声を失いました。
「・・・・あ、ゆ・・・なんでそんな小さいんですか?」
本当にあゆは小さくなってました。大きさは私と同じくらい、さらりと伸びるストレートの髪が初々しいです。
「あ・・・・まさか、あの電話の声は・・?」
「うん、ボクだ・・・・」
と言うとあゆはがっくりとうなだれます。って、ボクだ・・・・って。
「まさか、あゆも食べちゃったんですか・・・」
「はい、残念ながら・・・・」
秋子さんもうなだれます。
「あれ。けど確かあのジャムは性転換、身体退行、言語逆転、性格反転・・・・ふにぅ!!!」
「多分、祐一の思っているとおりだと思う」
「まさか・・・・・・・・男の子になっちゃったの・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・そうだ」
あゆは赤面しながらこくりとうなずく。
「あ、あはははははは、そ、そうですよね。仲間は多いほうがいいですしねーっ!!」
栞が少し嬉しそうな、困ったような顔つきでこっちを見てます。
はあ、なんか本当に偉い事になってきたなぁ・・・・いや今までも相当偉い事ですけど。
学校どうしよう・・・皆になんて言おう・・・・生活はちゃんとやっていけるでしょうか・・・・?
・・・・・・・・・ただ一つ、言える事は今まで以上に大変な日々になるんだろうな・・・・と思う。
Fin