「祐一さんっ、海に行きませんか?」
「嫌だ」



超機動暴発氷菓子娘しおりんPC9801移植版
サマータイム☆ブルータス

present by かち子



 ぞわり、と。背筋にえも言われぬ悪寒を感じ取った。この全身が総毛立つような感じは、ここ1、2年で急激に身近なってしまった感情だ(RR)。
 間違いない、これは殺意だ。
 殺医ドクター蘭丸ではなく。
 死神が人懐っこい笑顔で手招きしているような幻視。しかしそれに従う訳にはいかない。
 ひゅかっ。
 耳を掠めるような呼吸音を合図に、俺はそこら辺で適当にイチゴをパク付いていた従妹の名雪の首根っこを鷲掴みして、眼前に掲げた。

「えぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅえぅ」
「だおだおだおだおだおだおだおだおだおだお」

 視界に入ったのは、ショートボブの華奢な少女が直前の形容詞を端から否定するように、名雪の腹部と言わず四肢と言わず突きの連打(オラオラのラッシュ)で親の敵のように拳を打ち付けている阿鼻叫喚の浮世床。

「えぅえぅえぅえぅ――えぅ〜っ!」
「ヤッダッパァ〜っ!」

 どうやらフィニッシュしたようで、数多の拳打を浴びせられた名雪は画面外まで吹っ飛んでリタイアした。

「駄目じゃないですか祐一さん、久々に登場した名雪さんを盾にするなんて」
「知ってて多段ヒット技をかましてたのか、お前」

 しかもお前、普通にフィニッシュすれば俺と一緒に前方に飛んでいく名雪を、わざわざ真横に殴り付けなかったか?

「だって、祐一さんがつれないんですもん」

 ぶらりと下げられた両拳から血を滴らせながら、夏真っ盛りなのに身体にストールを纏っている少女は頬を膨らませて言った。
 この少女は美坂栞という。それはあくまで現段階の苗字であり、どうやら未来では相沢栞となっているらしい。つまりは、俺の妻としてだが。
 未来は不確定と言っても、俺達夫婦を実証する生きた実例があるからな。

「おにーさん、どして海に行きたくないですか?」

 ソファーに座って鷲図マージャンをしていた髪の長い女の子が、こちらに向いて尋ねる。

「お前は知らないだろうけどな、前に海に行った時に沖合いの島を一つ地図から消したんだよ、このアマは」
「祐一さん、あんな無人島を消したからとて無益に生を浪費して惰眠と安寧を貪っている一般愚民諸君には暇つぶしにこそなれ、損害を被るような事はないはずですが何を言ってやがりますか?」

ぼかちん☆

「しばらく俺がご無沙汰してるうちにずいぶんと増長してるじゃねーか、あん?」
「ううう……久々の拳は効きますね」
「おにーさん、島の一つ二つ、イゼルローン要塞の一つ二つ消してもいいじゃないですか」
「お前も一緒だから行きとうないんだ!」

ぼかちん☆

「ををを、頭に星が回ってるです〜」

 このストレートヘアーの少女は相沢螢という。妹ではない、俺は一人っ子だからな。
 では何者かと言うと、それが先述した未来の実例という奴で、未来世界からタイムワープしてきた俺と栞の娘らしい。ちなみに12歳で永遠の中学一年生。
 確かに容貌だけ見れば、親の贔屓目をなしにしても大変に可愛らしいのだが、問題はその性格だ。あらゆるパーツが栞似で、むしろ栞のコピーではないかと思わせるほどの破綻者だ。
 どこから出したのかも知れない数々の超兵器を用いて世界を恐怖とバニラアイスの渦に叩き込む存在、それが彼女達氷菓子娘だった。
 が、それでも神様は一片の慈悲をお残しになったようで、俺のそんな係累達にも一条の救いの光がある。

「……(くいくい)」
「ん?」

 服を引っ張られるような感触を覚え、ふと足元を見る。
 そこにいたのは、俺の腰ほどもない背丈の幼女。見る人が見たのなら、その外見からして親を瞬時に判断できるだろう。

「お嬢、どした?」

 お嬢、という呼び名はあだ名ではなく、本名である。相沢お嬢。相沢姓が物語っている通り、未来から来た俺の娘で、螢の妹に当たる。

「……(こしょこしょ)」
「……それくらいで許してあげて?」
「……(こくこく)」

 これだ。第二子にしてようやく生まれた純真な娘。この子の性質を考えれば、最悪な母親と長女がいても血迷う事なく世の中の益になるような人生を歩むであろう。

「うう、お嬢は優しいですよ……ちゅっちゅっ」
「……(ぽっ)」

 問題は、だ。
 血の繋がった、しかも同性の姉に惚れているところと、その気になれば栞と螢のタッグでも一寸の虫を捻り潰せるようにあしらう事ができる戦闘能力がある面だ。
 お嬢は姉に極端に甘い。なので、螢のブレーキ役をちゃんと担えるか、それが心配だった。もっとも、その役目は本来は父親である俺にあるのだが、一般人の我が身には逸般人の家族を止められる訳がない。

「祐一さん、行きましょうよ〜」
「だから何度も(ry」
「いいじゃありませんか祐一さん」

 と、横から口を挟んだのは壮麗な叔母上。

「秋子さんも見てたでしょうに」
「大丈夫ですよ、お嬢ちゃんがいるじゃありませんか」
「だから、壊してもすぐ修復してくれると思われちゃ困るんですよ」
「の〜……おにーさんがひどい事言ってるです」
「事実だろうが」

 螢がこの時代に来て引き起こした人災は枚挙に暇がない。何で国家が動かないのか、不思議なくらいだ。彼女の言葉はメギドラオン、彼女の眼差しはオプティックブラストとなって遍く大地を穿つのだから。

「えぅ〜……夏と言えば海じゃないですか」
「夏っつっても今年は近年稀に見る冷夏だろ」
「だからビーチが空いているとは考えなかったんですか?」
「寒いから嫌だ」
「そんな事言わずに」

 元々、俺は人ごみが好きじゃないから、海は敬遠していた。灼熱の太陽が照り付ける猛暑ならまだしも、こんな日照時間が少ない年に海に出かけなくてもいいと思う。
 今年の夏はコンビニでおでんが売れているなんて狂った気候だから、わざわざ海に行く人間の気が知れない。

「分かりました、ではこうしましょう」
「あん?」

 ぱちん、と栞が指を鳴らす。

「……暑っ!」

 急激に室温が上がった気がする。まさか、と思って窓際まで近寄って、外を見てみると。

「……確か今日の最高気温は23度だったはずだが」

 外のアスファルトの表面が、陽光のあまりの熱気に蜃気楼のように揺らいでいた。
 思い切って窓を開け放つと、むぁっと熱い空気の塊が顔を直撃する。

「赤道直下にしてしまいました♪」
「勝手に地軸を傾けるなっ!」

ぼかちん☆

「えぅっ!」
「おにーさん、家庭内暴力はイヤンです!」
「ついでにお前もだっ!」

ぼかちん☆

「の〜……螢に何か恨みでもあるですか〜」
「戻せっ! 今すぐこの場で迅速にだ!」
「ううう……致し方ありません。では適度に傾けて……」

 すう、と涼風が吹き抜けた気がした。が、それは気のせいで、単に赤道直下と相対的に見て涼しく感じただけなのだろう。
 事実、空は夏らしい晴れ渡った青に支配されていた。

「どうでしょう、祐一さん」
「……まあ……農家も不作って言ってたしな……多少なら貢献してもいいか」

 ただでさえ米所の宮城県は地震が頻発しているのに、収穫高まで減少しては可哀相だしな。

「さあ祐一さん! 海へレッツラゴー!」
「おい、人の話を聞いて――」
「お嬢、海で存分に泳ぐですよ〜」
「……♪」
「娘達、父の言葉を――」
「はい、もう既に用意はできていますからね」
「あぅ〜、海うみ〜!」
「我が叔母、ペット、あんたらも――」
「だ、お……う、み……」
「名雪、お前も血まみれなのに無理する事は――」
「では参りましょう! ルーラ!」

 しゅいん。




「やっぱり突然暑くしたから、人もまばらですね〜」

 気が付くと、水瀬家一同は小樽ドリームビーチにいた。俺の意見など全く無視で。
 最近、加速度的に出番と発言力がなくなっているような気がする。ここらで一発、大逆転の策でも練ろうかと思うが、残念ながら氷菓子娘連中をぎゃふん(死語)と言わせられるようなグッドアイディアは浮かびそうもない。
 ……三行半でも突き付けてみようかな。

「祐一さん、何か不穏当な決心をしませんでしたか?」

 ちゃき、と眼前に栞のカイザブレイガンが向けられる。しかもミッションメモリーがセットされてイクシードチャージまでされていた。
 が、そんな脅しに屈する訳にはいかない。恋人として、未来の夫として付けるべきケジメは付けておかないと人生負け組だ。
 毅然とした態度で、俺は言い放った。

「気のせいだろ」

 やっぱり命は大事だよな、うん。

「いいから、はよ着替えて来いよ」
「む、そうですね……祐一さんは?」
「面倒だからタオル巻いてそこら辺で着替える」
「おにーさん、小学生みたいです」
「体型と精神年齢と行動原理がナチュラルに小学生以下のお前に言われとうないわ」

 しっしっ、と追い払うように手を振る。

「祐一さん、覗いてくれないんですか?」
「顔を殴るぞ」
「えぅ〜」

 この世の終わりのように肩を落として、栞はみんなを伴って海の家の更衣室へと歩いていった。
 適当にパラソルを借りて砂浜に刺し、水着を装着したのちに荷物の番をする。
 栞の暴挙により、周囲はむせ返るほどの夏の匂いが充満していた。熱い砂を跳ね上げてはしゃいでいる子連れの家族や、突然降って湧いたような幸運に嬉々として海の水を掻いているカップルなど、久しく見ていなかった一幕が展開している。
 潮騒をBGMにぼんやりと中空を眺めながら、物思いに耽る。
 何で海の家って言うんだろうなぁ。浜辺にあるから浜の家じゃないのかなぁ。桜玉吉のしあわせのかたちでもネタにされていたよなぁ。そういやデブヤの海の家はどうなったんだろうなぁ。

「祐一さん、お待たせしました〜!」

 背中に言葉を投げ付けられて、首だけ後ろに向ける。

「ん……おお!」

 そこには少女達の柔肌が躍っていた。

「でゅふふ、どうですかおにーさん」

 と、幼児体型の螢がいかにもグラビアに載っていそうなポーズでウインクを送ってくる。ワンピースタイプの水着だ。あまり水着の事はよく知らないが、変にない色気を強調するようなものよりは螢に似合っていた。

「……(ぽっ)」

 お嬢はすごい。スクール水着だ。しかも胸元に「いちねんいちくみ あいざわおじょう」と記入されている。誰だ、こんなのを用意したのは……と考えるまでもなく、秋子さんであろう事は想像に難くない。

「そして真打ち登場のこの私」

 栞は……普通だ。

「それ以外に形容がないんですか」
「心を読むな」

 ごく普通のセパレートだが。さして特徴がある訳でもなく、可もなく不可もなしといったところだ。
 まあ、胸の部分を上にずらしたらすぐに乳首にご対面だから便利そうではあるが。
 ……などと公衆の面前では口が裂けても言えないし、お嬢の情操教育にもよろしくない。
 なお、複雑な理由により真琴と名雪と秋子さんは割愛する事にします。

「本当は気まずいくらい布地を細くして祐一さんを悩殺と言わず視殺と言わず極楽浄土へと誘おうかと思ったんですが」
「胸の薄さに起因する色気のなさが俺と言わず他人と言わず本当に気まずくさせるからやめておけ」

 吐き捨てた刹那――

「ズオサイダル・テンデン・ジアー!」
「名雪バリヤーっ!」

 栞の裂帛の気合よりも先に、俺は再び名雪の頭を掌握して盾とした。
 栞の掌より、黒い霧状のものがのっそりと姿を現す。その果て無き漆黒は光すら通さず、まるで対象と自身の間に横たわっている空間を食っているようだ。
 見るからに背筋に冷や汗が伝うその黒煙が、名雪の身体を取り巻くや否や、彼女の血肉が見る見るうちに腐り、爛れてしまった。
 腐灰閃潰燼解瘡。全ての物質を高速度で腐敗させる腐蝕バクテリアを含んだ暗黒ガスを生じさせる魔法である。その威力たるや、強固な城壁や金属すらも腐らせてしまうほどだ。生身の名雪がこれを浴びれば、目の前で繰り広げられている筆舌に尽くしがたい光景になるのは自明の理。
 しばらく名雪を腐蝕させて土に還したのち、バクテリアは自滅して消えていった。

「祐一さん、今何か仰いましたか?」
「空耳だろ」
「私、三光年までなら針の落ちる音も聞こえるんですが」
「そりゃさぞかし周りはやかましいだろうなぁ」

 視殺戦の幕が上がった。

「……(くいくい)」
「あん?」
「……(こしょこしょ)」
「早く泳ぎたい?」
「……(こくこく)」

 うむ、夫婦喧嘩の仲裁を進んでやるとは理想的な娘だ。少なくともそこら辺に歩いていた小蟹を捕まえて浜焼きしている長女よりは遥かにマシだろう。

「そうだな、じゃあ泳ぎに行くか?」
「……♪」
「えぅ、私をナシンコにしないで下さい〜!」

 栞に追い付かれないうちに、お嬢をお姫様抱っこして波打ち際まで走っていった。




「……そうだよなぁ、泳げないよなぁ」
「……(こくこく)」

 真夏の太陽から逃れようと海水に浸かっている俺の目の前には、浮き輪でぷかぷか浮かんでいる相沢家次女。
 七歳で、しかもこの可愛さだ。親馬鹿になっているであろう未来の俺は、さぞかし箱入りに育てて水場からも遠ざけていたのだろう。

「……楽しいか?」
「……♪(こくこく)」

 水面に上半身を出してくるくると回っているお嬢は、澄み切った蒼穹に喩えられるような満面の笑みを浮かべている。
 まあ、当の本人も喜んでいるらしいので、こちらも微笑んで頭を撫でてあげる。

「ううう、おにーさんとお嬢がいい雰囲気です……」
「妻の私を差し置いて……」

 いつの間にか追い着いてきた栞と、浜辺で蟹やら帆立やらをバーベキューしていたはずの螢まで波に身をたゆたえながら、恨めしそうに睨んでいる。

「そう言えば、螢は泳げるのか?」
「あい、パーペキですよ」
「螢ちゃんは換装する事によって全地形に適応を持つんです」

 つまり本体は泳げんと、そういう事だな。
 しかし、こうやって一家で海面に浮かんで日光を浴びていると、胸の奥から暖かいものが溢れてくる。これが幸せというものなのだろう。

「うぃ〜……」
「どした、螢」
「お魚さんを探してるです」
「また食うのか、お前は」
「違うです、今晩のおかずですよ」
「どっちも同じだ」

 そもそもこんな浅いところに魚なんぞいないと思うが。

「祐一さん、栞さん」

 柔らかい声音が耳に入る。

「あれ、秋子さん」

 ついでに真琴まで。名雪は、と思って周囲を見回すと、俺達のパラソルの下でゾンビになりながら荷物番をしていた。全く、誰だ名雪をあんな姿にした奴は。酷い事をする人間もいるもんだなぁ。

「先ほど、海の家の人達が話していたんですけど」
「何をですか?」
「この浜辺には伝説があるようなんです」
「伝説、ですか?」
「ええ、何でも沖の海底にかいがらが沈んでるらしくて」
「貝殻」
「はい、それを目の当たりにしたカップルは恒久的に幸せになれるそうなんです」
「ふーん……カップルねぇ――」

 はっ、として、振り返る。
 そこには予想通りというか何というか、こんな予想ばっかり当たる俺はテレパスかと悔やみたくなるくらいにお約束の、怪しげに瞳を光らせている栞の姿。

「祐一さん! カップルが恒久的に幸せですよ!? 行きましょう、その貝殻を見つけて死が二人を分かつまでっつーか二人を分かつ死なんて滅ぼしてしまうくらいずっと一緒に乳繰り合ってまし――」

ぼかちん☆

「まあ落ち着け」
「ううう……」
「おししょ、螢にもその権利はあるはずですよ」
「……(こくこく)」
「もちろんお嬢にもあるです」
「なっ!? あなた達は両親の愛を引き裂こうと言うのですかがぼぼぼっ!?」

 とりあえず騒々しさ極まりない栞を海中に沈めてから、秋子さんに向き直る。

「この広大な海の底を貝殻探すなんてのは、無理じゃないですか?」
「一番深いところで、すぐに見つかる、とは聞きましたけど」
「それでも、俺はそんなに素潜りできませんよ」
「でゅふふ、その点に関しては私にお任せを!」

 いち早くダウン復帰した栞が、頭にワカメを絡ませながら得意げに言って、ごそごそと海中に手をやっていた。
 ……正確には、水着の中に手を入れて、だ。
 そして引き抜いた彼女のその手に握られていたのは。

「テキオ〜刀〜!」

 一振りの刀。

「なあ栞」
「何でしょう」
「その面積が極端に少ない水着のどこにそんな業物が」
「気にしちゃイヤンです」
「おししょ、真似しちゃイヤンです!」

 相変わらず常識と非常識を自由に行き来できる少女だ。

「で、何なんだそれは」
「これはテキオー刀と言いましてね、斬られた人はどんな環境にも適応できてしまう秘密道具なんです」

 ――殺気っ!
 素早く海中に潜り込む。
 ひゅかかっ!
 気配だけではあるが、先ほどまで俺が立っていた位置を剣閃が迅ったのが分かった。しかも、ちょうど頭部の付近だ。
 ぶはっ、と海面まで浮上する。

「駄目じゃないですか祐一さぁん……斬られなきゃ海適応Sになれませんよぉ……」
「お前、俺に多額の保険金でも掛けてるんじゃなかろうな……」

 瞳に尋常ならざる光を湛えた栞。

「おにーさん、このカプセルを飲むです」
「ん? 何だこれ」
「インヴァイロメンタルナノマシンですよ」
「淫売……何だって?」
「これを飲むと、体内でナノマシンが増殖してどんな過酷な状況でもホメオスタシスが120%作用して……ぶっちゃけ海中でも呼吸ができるです」

 ぶっちゃけすぎだ。

「副作用は」
「だいじょぶじょぶです、一日経ったら排泄されるですよ」
「お前、どこからこんなものを」
「螢が手遊びで作ったです」

 さすがIQ600の才女、訳が分からんものを作る事だけは秀でている。

「お嬢もごっくんするですよ〜」
「……(ごくん)」
「秋子グランマもキツネさんも飲むです」
「螢ちゃん、私には」
「おししょは五時間の無呼吸運動ができるから要らんです」
「ううう……家庭崩壊の危機」

 少々怪しげな薬と伝説だが、何故かみんな乗り気なようなので仕方なく付き合う事にする。こういう時は、ただ一人の男というのは不利だ。

「準備はできましたね、では魅惑の海中探索へレッツラゴー!」

 ざぶん。




「…………」

 海底に立って、深遠なる海を見やる。

「……確かにすぐに分かりそうなものだが」

 前方で海草と一緒に揺らめく、巨大な物体。
 それはヤドカリをこれでもかと言うくらい放射能を浴びせて変貌させたような、素直に形容すれば化け物だった。
 触手がたくさん生えていて、そこらを泳いでいる魚群を察知して捕食している。

「秋子さん、あれのどこが貝殻なんですか」
「え? だから言いましたでしょ、怪殻って」
「は?」
「怪殻」
「…………」
「よく読み返してみて下さい。私は確かに『かいがら』とはお答えしましたけど、『貝殻』と漢字変換していません」

 つまり、だ。
 怪物のような甲殻類だから怪殻、と。
 うわあ、すげぇ強引なオチ。

「どうするですか、おししょ」
「ふむ……一応祐一さんと見れたんだしこのまま帰りましょうとは参りませんか……」
「……(こしょこしょ)」
「そうですね、周辺の人々の脅威にもなりそうですし、ぶっちゃけ目障りだからブチ殺してしまいましょう」

 だからぶっちゃけすぎ。

「では早速――サテライトキャノン!」

 …………。
 ………。
 ……。
 …。
 何も起こらない。

「どうしたですか、おししょ」
「おや?」
「螢に任せるですよ――サテライトキャノン!」

 …………。
 ………。
 ……。
 …。
 同じく、無骨な砲身はうんともすんとも言わない。

「ををを? 螢もです」
「これは一体――ああっ!」

 不意に、栞が素っ頓狂な声を上げた。

「何だ、どした」
「……どうやら、最近サテライトキャノンを全然撃っていないのでバッテリーが上がっているようです」
「バッテリーって何だ!?」

 と――
 怪殻がのっそりとこちらを見たような気がした。何となく、嫌な予感がする。こういう時の俺の予測は大抵当たってくれるんだ、本人の意志とは無関係に。
 そう悲観した刹那、

「あぅぅぅっ!?」

 びゅるるるる、と怪殻の触手が伸びて、真琴を絡め取った。真琴は必死にもがくも、所詮は陸にいるべき生き物と海の支配者、力関係は歴然たるものがある。
 そのまま真琴は怪殻の体内へと吸収されてしまった。

「おい、どうやら俺達に標的を定めたようだぞ!?」
「むむむ……これは困りましたね」
「第二波が来ちゃうです!」
「では、お嬢に頼むとしま――」
「駄目だ、お嬢の手は汚させん。螢で失敗したんだ、この子だけは死んでも守るぞ」
「……おにーさん、愛がないです」

 ぴた。

「あ?」

 触手の攻撃が来るかと思いきや、怪殻はその場で静止してしまった。
 何故だ、真琴を摂取して腹一杯か?
 真琴、真琴……真琴ねぇ……って――

「エキノコックスだ!」
「……!?」
「なるほど、真琴さんが体内で頑張っているんですね」
「チャンスだ、何とかしろ!」
「そうは言いましても……海中ではほとんどの武器が威力激減してしまうんですが」
「じゃあどうするんだよ」
「……! そうです!」

 ぽん、と栞が拍手を打つ。
 が、例によってその瞳は邪悪な輝きに溢れていた。

「祐一さん、こうしましょう。バッテリーが上がっているサテライトキャノンなら、バッテリー強化液を注入すればいいんです」
「バッテリー……強化液?」

 猛烈に嫌な予感がした。ゼノサーガとテイルズシリーズを一年ごとに交互にリリースしますとナムコが宣言した時と同じくらい。
 だって、ゼノサーガ完結までに10年かかる計算になるぞ、あれ。

「決まってるじゃないですか、祐一さんの精液です」
「アホかっ!」
「さあ、一刻を争います。早くしないと真琴さんが消化されちゃいますよ」
「どの道サテライトキャノン照射で蒸発するだろうが!」
「ええい、早く海パンを下ろしてそそり立つ剛直を晒すんです!」
「お、おい螢! お前何とか――」
「おししょ、螢にも分けて欲しいです」
「秋子さ――」
「はい、お嬢ちゃん、お目々つぶってましょうね」
「……???」
「あああああああああっ! てめえらああああああああああっ!」
「じゅるり、では頂きます!」




















( `・ω・´)y―~~ それからそれから?



















 ゴトン、ゴトン。
 帰りの列車の中で、俺は真っ白に燃え尽きていた。

「いやあ、楽しかったですね〜!」
「うぃ〜、また来たいです!」
「……♪(こくこく)」

 ……あの後。
 今までの鬱憤を晴らすかのごとく俺の精を吸い尽くした栞は、アテナの血によって金色に輝くサテライトキャノンを例の怪物に照射した。
 ……しすぎて、海を挟んだ反対側の土地を抉り、海の水を限界まで蒸発させた。
 恐るべし、サテライトキャノンとそのバッテリー強化液。
 ちなみに真琴はあらかじめ秋子さんがリレイズを掛けていたらしく、復活。この事態を予知していたとでも言うのだろうか。相変わらず謎な人だ。
 ゾンビ名雪はと言うと、浜辺で遊んでいた子供にフェニックスの尾を使用されて「ざんねん! わたしのぼうけんはこれでおわってしまった!」とかほざいていたので、まだまだ余裕がありそうだ。

「あんな怪物なら万々歳ですよね〜。またイきましょうね、祐一さん!」

ぼかちん☆

「カタカナで言うなっ!」
「ううう、事実なのに」
「……結局螢の分は残ってなかったです」
「螢ちゃん、今夜に期待しましょう」
「あい、おにーさん覚悟するですよ!」

ぼかちん☆

「ふぉぉぉ、どめすてぃっくばいおれんすです〜!」
「……(おろおろ)」




 こうして、俺達の海水浴(怪水浴?)は終わりを告げた。
 しかしまた来年は似たような騒乱に巻き込まれるであろう。今から方策を練っておく必要がある。

「栞」
「はい?」
「別れよう」
「殺しますよ?」

 これは既に呪縛だな、と思う相沢祐一の夏だった。







HMBI-Siorin Episode"Dyufufufu"
Over……



あとがき

しおりん最高。
という訳で、今回は全面的に栞が主人公。
そしてネタ薄め。
まあ、かち子みたいなど素人はマザー1でもプレイしてなさいってこった。

2003.7.29