黒い煙。崩れた壁。黒く焦げた床や飾られていた衣服。
そして、血を流して倒れている人々。
ここは町から少し離れたところにあるデパート、だった建物。
先ほど、何者かに仕掛けられた爆弾が爆発したのだ。
1人の少年が倒れている。頭や腕から血を流し服が焦げているが意識がある。
彼は今日、友達の付き添いでこのデパートに来た。その友達は視界の端で倒れている。
もう動けない。もうすぐ死ぬだろう。
彼の脳はそう確信し、走馬灯と、1週間前の出来事を見せ始めた。
Kanon 『記憶の中の約束』
「祐一早く〜。」
玄関先で名雪が自分を呼ぶ。今日は珍しく寝坊してしまった。口の中のパンを飲み込みカバンを手に取ると急いで玄関に行き靴をはく。
「じゃあ秋子さん、いってきます。」
「いってきま〜す。」
「はい。2人とも気をつけて。」
秋子さんに見送られ学校に向かう。空は晴れ、雲1つない快晴だ。
「そういえば祐一。明日のことちゃんと覚えてる?」
隣にいる名雪が話し掛ける。明日?なにかあったかな。とりあえず思い出そうとするがなかなか出てこない。名雪は不審そうにこちらを見つめる。また思い出そうとする。が、やはり出てこない。
「・・・・なんだったっけ。」
仕方なく名雪に聞く。彼女はため息をついて答えた。
「明日は叔父さんのお見舞いに行くんでしょ。」
そう言われて思い出す。叔父さんとは7年前お世話になった名雪の親戚だ。2週間前事故に遭って近くの病院に入院しているのだ。
叔父さんとはあの時以来会っていないので少し楽しみだった。
ふと思う。叔父さんなら知ってるかもしれない。7年前のことを。7年前なにがあったのか。
「祐一?」
我にかえる。名雪がきょとんとした顔で見つめる。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
そう答えると俺達は学校に向かった。
人の流れに沿い俺は1人歩いていた。
帰ってもやることが無いので商店街を散策することにしたのだ。商店街は相変わらずでいつもとたいして変わらない。
ふと目の前にタイヤキ屋と1人の少女がいた。
少女はあゆだった。
なにやら必死でポケットを叩いたり探ったりしている。
「・・・・あゆ?」
「あ、祐一くん。」
あゆがこっちを向いた。
「はい。どうぞ。五百円ね。」
焼きたてのタイヤキが入った袋を受け取りお金を・・・・・ださない?
あゆはすこしの間硬直し
「うぐぅ。」
と言ってこっちを向いた。
(つまり俺が払うわけね?)
結局俺はタイヤキ代5百円を支払った。
「ふぅ〜。助かっちゃった。」
あゆが笑いながら答えた。手にはもちろんタイヤキの入った袋。
「ちゃんと財布持っとけよな。」
「うぐぅ。」
俺はベンチに座って言った。
あゆは早速タイヤキを食べている。
「まあ俺がいたからいいものの。お前、俺がいなかったらどうするとこだった?」
あゆは問いに答えず、黙ってタイヤキを口にほうばる。
すこし沈黙。
「・・・まさか、また逃げるつもりとか?」
あゆは答えない。
再び沈黙。
「今日は祐一君どうして商店街にいたの?」
(話をうまく変えやがったなこいつ。)
「別に。帰ってもやること無いから。あゆは?」
「タイヤキ食べたかったから♪」
あゆは笑った。即答。
あゆらしい答えだ。
「じゃぁ今度はちゃんと財布持って行けよ。」
「うぐぅ。」
そう言って俺はあゆの持ってるタイヤキを1つ取って口にした。
「うぐぅ〜〜〜!ぼくのタイヤキ〜〜〜!!」
「なんだよ。いいじゃん1つくら・・・うっ。」
あゆがいまにも泣きそうな目でこっちを睨む。
まだ睨む。
目に涙がたまっている。
「・・・悪い。またおごるから。」
「ほんと?」
黙ってうなづく。するとあゆはぱっと笑って見せた。
「わ〜い。じゃぁ明日!またおごってね。」
あゆがそう言った。わかったと言いそうになって今朝のことを思い出した。
明日はお見舞いに行かなければならないのだ。
「ごめん。明日はお見舞いに行くんだ。」
俺はあゆにそう言った。するとあゆの動きが少し止まった。
表情も少し暗くなった気がした。
「・・・そうなんだ。じゃぁまたね。」
あゆはそう言うと走り去っていった。
その声は何かを隠してるようでもあった。
最後のあゆのしぐさに疑問を感じながら俺は帰宅した。
「それじゃぁ叔父さん。お大事に。」
名雪がベッドに横になってる叔父さんに言って俺達は病室を出た。
叔父さんは足の骨を複雑骨折しただけで元気だった。
久しぶりに会えたのは嬉しかった。だけど7年前のことは叔父さんは知らなかった。
「じゃあ祐一、少し待っててね。」
「ああ。」
名雪は見舞いのついでに、足の調子が悪いと言って予約を入れていたのだ。
俺は名雪を待つ間、屋上に居ようと思っていた。
自販機で飲み物を買おうと探してた時、俺の目にある人物の名前が入ってきた。
『月宮あゆ 面談謝絶』
自分の目を疑った。昨日会ったばかりのあゆがここにいるはずない。
必死になってそれを否定した。
(そうだ同じ名前の人だ。そうにちがいない。)
俺はそう確信した。だが心のどこかではそれを疑っている自分がいた。
ためらいがちに俺は扉を開けた。
中にはいくつかの機材と1つのベッド。
そして横たわる少女がいた。
認めたくなかった。否定したかった。
だが、これが真実だった・・・。
病院を出てからどうしたか俺は覚えていなかった。
名雪を待たず、ただ人ごみに流されたのは覚えていた。
今は昨日の公園のベンチに下を向いて座っている。
雪がちらついてきたのが解ったが今はそんなことどうでもよかった。
空がだんだん暗くなり、公園から人気がなくなる。
視界のなかに誰かの足が入ってきた。
顔を上げると1人の少女がいた。
「どうしたの祐一君。風邪引くよ?」
少女が話し掛けてきた。
手にはタイヤキの袋が抱えられている。
俺は少しそれを見た。
「あっ。こ、これはその・・・えと・・・。」
俺は立ち上がった。そして目の前の少女に聞いた。
「おまえ、誰だ。」
少女は少しきょとんとしながらも答えた。
「誰って、僕だよ。あゆだよ。」
そう答えた少女に俺は冷たい視線を向けた。
少女はすこし怯えたようだった。
「今日、309病室にいったんだ。」
「えっあの部屋は入れな・・・!!」
少女は自分の口をふさいだ。俺は彼女の言葉を聞き逃さなかった。
俺はさらに睨みつけた。
「そうだよ。あの部屋は面談謝絶で入れなかった。なんで知ってんだ?」
1歩前にでる。少女は口をふさいだまま動かない。
「あの部屋にはあゆがいた。お前と同じあゆが。部屋の前のプレートもあゆだった。じゃあおまえは誰だ。なんであゆのふりをする。」
少女は答えない。目には涙がにじみ出ている。
「なんで俺の前に現れた。」
少女は答えず、涙でいっぱいになった目をこちらに向けている。
それが俺には許しを求めているようで、逆に俺の怒りを高めた。
俺は少女の手を握って口からどけた。
「お前は誰だ!!!」
俺は怒りと共に叫んだ。
少女の目から涙が溢れ頬を伝って地面に落ちた。
「ゆういち〜〜〜〜〜。」
遠くから名雪の声が聞こえた。
俺は少女の手を離し公園を出た。
出てすぐ。
少女の泣く声が耳に入り、俺の心に突き刺さった。
脳はそれからも俺の過去を見せ続けた。
この町に来た時のこと。
学校に入学した時のこと。
そして・・・
7年前。
目の前で雪が赤く染まった時。あゆが木から落ちた時のことを見せた。
目から涙が出てくるのがわかった。
やっと7年前のことが思い出せたこと嬉しさと、あゆにもう会えない悲しさに俺は泣いた。
体が冷たくなるのがわかった。
俺は目をつむり、静かにその時を待った。
すると、頭上から光を感じた。
とてもあったかく、やさしい光。
目を開けると1人の少女が静かに立っていた。
あゆだ。
背中から純白の大きな翼を生やした、まるで天使のような姿のあゆがいた。
「ごめんね。隠してて。祐一君を悲しませたくなかったの。祐一君といっしょに居たかったの。」
あゆはそっとしゃがんで俺の頬にやさしく触れた。
「けど祐一君を悲しませちゃった。だから――――」
肉体から魂が抜けるような感じだった。
顔を持ち上げられ、あゆの顔の前に置かれる。
「僕が祐一君に命を・・・。」
あゆは目を閉じ、俺に口づけした。
体のなかに何かが流れ込み、あゆの翼が俺達を包み込む・・・。
「祐一!!」
誰かに呼ばれて俺は眠りから覚めた。目を開けると秋子さんと涙を流している名雪がいる。
ここはあのデパートではなかった。
天井も壁も白くベッドがある。
ここはあの病院だ。
俺は胸にふせて泣く名雪の頭をそっとなでた。
「祐一、・・・ぐす・・・祐一、よかった・・・。」
「あばら骨と左足の骨折と打撲が数箇所ありますが、命に別状ないそうですよ。」
秋子さんが目に涙を浮かべながら状態を説明してくれた。
名雪はまだ泣いている。
俺は生きている。
多少怪我をしながらも俺は生きている・・・。
『デパートにて爆弾爆発。死傷者34名。』
ロビーのソファーに座って俺はあの時の新聞の記事を読んでいた。
爆弾は俺達がいたフロアに仕掛けられていて、そのフロアにいた人間で生き残ったのは俺だけだった。
いっしょにいた友達はあそこで短い人生を終えたのだ。
俺が生き残った理由。
それはあゆのおかげだ。
あゆは俺を助けるために自分の命を俺に与えたのだ。
途端に悲しくなった。涙が溢れ出てきた。
俺が生きてる以上、あゆには2度と会えないのだ。
あゆの笑顔を見ることができないのだ。
手の上に涙が落ちる。
頬を伝って涙が流れる。
俺は声を押し殺して泣いた。
「泣かないで、祐一君。」
聞き覚えのある声がした。
一番会いたい。
一番笑顔を見たい人物がそこには立っていた。
あゆだ。
あゆは病院のパジャマを着て手にハンカチを持っている。
「あゆ、あゆ!どうしたんだ、なんでここに?」
思わず立ち上がって肩に触れる。
幻ではない。本当のあゆだ。
「えっと、あの、・・・覚えてないの?その、あの時のこと。」
あゆは顔を赤く染めて聞いてきた。
(覚えてない?あの時って。あっ。)
回想
白い翼が俺達を包み込んだ。
俺のなかにあゆの命が流れ込んで来る。
俺はあゆを後ろに押し倒した。
え、とあゆが驚いた。あゆの口唇が離れる。
「嫌だ!俺が生きてあゆが死ぬのなんて嫌だ!!」
あゆの口唇を奪うと小さな胸に手をやった。
一瞬離れそうになり、あゆが俺の背中を抱きしめた。
<以下自主規制>
俺とあゆは交わり、互いに命を与え合った。
赤面。
そして沈黙。2人して下を向いている。
「あ、祐一君。」
あゆが話し掛けてくれた。
「僕、明日退院するんだ。だから・・・・。」
あゆがにっこりと、眩しい笑顔を見せた。
「あの木の下でまた会おうね。それと約束守ってね。」
俺はうれしくて何度も首を縦にふった。
うれしかった。
とてもうれしかった。
あゆがいるから。
あゆの笑顔が見れるから。
もう離れない。
もう忘れたりしない。
それがあゆにした約束。
いつまでもいっしょに。
END
あとがき
一応言っときます。
僕はKanonをやったことがありません。これは本編とは全く関係ありません。あくまで自分の想像上の物語です。
でも祐一君はあゆと結ばれると思っています。
それが真実だと思っています。