[神鳴り]の意から発生した言葉あり、雲と雲、あるいは、雲と大地間で放電し、一般的には、夏によく発生する現象である。
発生の過程としては、夏の日差しによって地表付近の空気が暖められ、それが上空へと上って行き、その結果入道雲ができ、雷が発生するというものが、最も基本的である。

このようにして雷が発生するわけだが、それがわかったからといって、雷自体に何か変化があるわけではない。
「幽霊の正体見たり」と違い、恐れが消えるわけではない。
つまり、雷のことを苦手にしているものにとっては、なんら意味を持たないということなのだ。

 

 

 

 

 

 

ピカッ!

ガラガラガーン!!

一瞬の閃光の後、わずかに遅れ雷鳴が空気を震わせて鳴り響く。
そのあまりの音の大きさに、真琴は身をすくませた。

「あうぅ〜〜〜」

部屋の片隅で布団に包まりながら、体をがたがたと震わせて真琴は呻き声を上げる。
その顔には、いつもの春の日差しを連想させる人懐っこい笑みは浮かんでおらず、悪戯っぽさをたたえた瞳は、今は涙がこぼれんばかりにうるんでおり、更には真っ赤に充血していた。
いくら雷が苦手だとはいっても、尋常ではない怖がり方である。
だが、それも彼女がどういった存在であるかを考えれば仕方ないだろう。
もともと彼女は狐、つまりは獣である。
雷が鳴るときは大抵大雨が降るし、落雷でもあった場合には火がおきる時だってある。
どちらも狐にとっては好ましくないものだ。
その彼女が雷を恐れて何の不思議があるだろうか。
穴の中に入り込まないだけでも十分立派なものである。
……まあ、彼女の部屋にはそんな穴など無いのだけれども――――――

 

ゴロゴロゴロ……

 

また低い音を立てて、上空の雷雲が鳴った。
その音に反応し、真琴はビクッと体を震わせる。

 

「あ、あうぅぅう〜〜〜!!」

 

とうとう緊張の限界に達し、真琴はひときわ大きな悲鳴を上げた。
もう我慢の限界だ。
このままではそう遠からずパニックに陥るだろう……その時、思わぬ、ではなく、思い通りのところから救いの手は差し伸べられた。

 

ガチャ

 

「お〜い、真琴、なんか凄い声出してたけど、大丈夫か?」

さして慌てる風もなく、面倒くさそうに祐一が部屋に入ってきた。
普段なら、ここで真琴は

「レディーの部屋にノックもなしに入ってくるんじゃないわよー!」

と激昂しつつ、枕なり目覚し時計なりを手当たり次第に投げつけていただろうが、今日は勝手が違った。
母親を見つけた子犬のように、祐一にまっしぐらに駆け寄ってきたのだ。
だが、その勢いは子犬のそれではなく、闘牛のそれであり、祐一がそれに気がついたときにはもう真琴は、NFLの選手もかくやというぐらいのタックルを祐一にかましていたのだった。

 

ズゴッ!!

 

「ぐあっ!!」

倒れた際に頭を打ったのか、やたら鈍い音を立てて祐一は倒れこみ、悲鳴をあげた。
本来なら、頭を抱えてその場でのた打ち回りたいところだが、その祐一が倒れる原因となった張本人は、祐一の服ををしっかと握り締め、その胸に顔をうずめ、涙と鼻水を盛大になすりつけていたので、それもできない。
文句を言い、真琴の頭を殴ろうとした祐一だが、その様子を見て何も言えなくなる。
結局は、振り上げた拳を下ろし、彼女の頭を撫でることしかできなかった。

 

「ったく、何があったんだ。」

毒づきたいのと痛みを我慢し、できるだけ優しく祐一は声をかけた。

ふるふる

しかし、真琴は首を横に振るだけで答えようとしない。
こんな状況を従姉妹の名雪には見られたらどうなるか、そう思い、背筋が凍った祐一は、先程よりもいっそう優しい声で真琴に尋ねる。

 

「おい、本当にどうしたんだ?黙っていたらわからないぞ?
 ほら、よく落ち着いて、俺に話してみな?」

優しげな祐一の口調に、いったん真琴は顔を上げ、口を開こうとするが、何かを思い出したかのように口をつぐみ、横を向いた。

 

「おい、真琴、一度言おうとしたのに何でやめるんだよ。」

そのことに気づいた祐一が不満を言うと、真琴は顔を赤らめながら小声でこう言った。

 

「だって……言ったら、祐一きっと笑うもん。」

「う……」

真琴の様子に、思わず祐一はうめいた。

それも無理はないだろう。
真琴は祐一の胸に顔をうずめている。
そして、その位置から顔を赤らめ、涙をたたえた瞳で祐一の顔を見上げているのだ。
普段強気である真琴がこのようなことをすると、そのギャップに思わずうめきたくもなるものだ。

 

「笑わない。絶対笑わないって約束するから言ってみな?」

 

祐一自身も多少顔を赤らめながら、本当に優しく真琴に再び尋ねる。

 

「……怖かったの。」

 

「え?」

 

小声で真琴は呟くが、その声が小さくて祐一には聞こえなかった。

 

「だから、雷が怖かったって言ってるの!!」

そこまで言って、真琴はプイと顔をそむけた。
だが、その体は祐一に抱えられたままだし、体もまだ震えているので、ほとんど迫力はない。
むしろ微笑ましいぐらいだ。
その様子を、微笑みながら見ていた祐一だが、ふと何かを思いついたのか、やおら真琴を抱えて立ち始めた。

 

「きゃ、ちょ、何するのよぅ!!」

いきなり持ち上げられたためバランスを崩した真琴は、慌てて祐一の首に抱きつく。
俗に言うお姫様抱っこだ。
今の自分の状況に気付き、真琴がさらに顔を羞恥に染める。

「雷が怖いんだろう?
 だったら、雷が鳴ってる間ずっと俺が側にいてやるよ。」

 

さらに微笑を深めながら優しげに言い放つ祐一。
惚れた弱みというものか、真琴はそれだけで何も言えなくなった。

 

「で、でも本当にいきなり立ってなにするの?」

 

多少落ち着きを取り戻し真琴は尋ねる。
笑顔に騙されそうになったが、実際先程のは問いの答えになっていない。

 

「きまってるじゃないか。俺の部屋に行くんだよ。」

 

「え?」

 

目が点になる真琴。
そしてすぐその言葉の意味に気付き、手足をバタバタと蜘蛛のようにもたつかせる。
その様子に、苦笑しながら祐一が尋ねてくる。

 

「安心してくれ。弱みに付け込んで怖がってるお前に無理やり変なことしたりしないって。
 ただ、傍にいる代わりに、真琴と二人っきりで俺の部屋でゆっくり過ごしたいなって思っただけだよ。
 …………ダメか?」

 

最後のところは、心配そうに聞いてくる。
そんな風に言われて断れるほど、真琴は祐一に対して強くない。
結局、真琴はこれ以上ないってぐらい顔を赤くしながらOKしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝

 

「う、う〜ん」

 

呻き声とともに真琴は目を覚ました。
周囲がいつもと違う風景なのに少し驚いたが、すぐに昨夜のことを思い出して落ち着きを取り戻す。
ちなみに、どこが違うのかと言うと、彼女の体の大部分が目の前の人物によって固定されているということが大部分を占めていた。

 

「祐一、朝だよ、祐一!!」

 

「う、う〜ん」

 

身をよじりながら真琴が祐一を起こそうとすると、先ほどの真琴と全く同じように祐一が呻き声をあげながら目を覚ます。
真琴は、その様子を、昨日の祐一と同じような微笑を顔に携えながら見つめていた。

 

「え〜っと、あれ、なんで真琴がここに……
 って、あっ、そうか。そう言えば昨日……」

 

寝ぼけた頭で今の状況を理解しようとしている。

だが、

 

「祐一〜〜考え込むのはいいんだけど、とりあえず手を離してよぅ。」

 

「お、おおっ!!わりぃ、わりぃ!!」

 

慌てて祐一は真琴の体から手を離した。
ようやく自由になった真琴は、立ち上がって窓際へ向かって歩いていき、カーテンを開け、伸びをする。

 

「うわぁ、昨日の嵐が嘘みたいにいい天気。」

 

「昨日と比べれば、今の真琴の元気さのほうが嘘みたいだよ。」

 

「何か言った?」

 

「いや、何にも!!」

 

ぼやきが聞こえたのか、真琴が祐一を睨む。
まあ、睨むと言っても、拗ねているようなものなのだが……
実際そう大して怒っていないのか、すぐに祐一から視線を外し、窓の外へと目を向ける。

 

「ふう、それにしてもたまになら嵐もいいかなぁ……」

 

「え、なんで?
 昨日あんなに怖がってたじゃないか。」

 

昨夜の様子を思い出し、いぶしがる祐一。
その問いに恥ずかしそうに真琴はこう答えた。

 

「だって、そうすればまた祐一と――――――」

 

 

 

後書き

これは、以前、とある人にチャットでリクエストされたものに、ほんの少しだけ修正を加えたものです。
……しかし、あまりできがよくないよなぁ(汗)
誰か、私にぶんざいをぷりーづ。