一期一会、という言葉がある。もともとは茶の湯での表現だが、客を一生に一度しか出会いのないものとして、悔いのないようにもてなせ、と、つまりはそういう事だ。
では、自分はどうもてなされているのだろう、と佐倉湊は考える。
それはまさに、彼女にとっては一期一会などと生易しい響きとは縁遠い、騒乱とさえ言える出会いだったのだから。
正しい魍魎の鎮めかた。
前編
市立深南高等学校。道内ベスト5に名を連ねるほどの進学校でありながら、その自由な校風と豊富で実績のある部活動で有名な学び舎である。
当然、倍率も高い。
地理的にも坂が多く、市内で一番標高の高い場所に位置している為、冬場に自転車でも乗ろうものならそのまま坂の下の道路までまっさかさまに滑ってしまう。
それを除けば景色はいいし、少しバスに揺られれば海水浴場もある事から、環境はこれ以上ないくらい恵まれていた。
そんな、ある意味理想的な高校の三階に、在学生から「魔窟」あるいは「人外魔境」と揶揄されている一室がある。
その扉には貼り紙がしてあり、見事な達筆で「オカルト研究部」と銘打たれていた。それだけで一般生徒は引きそうだが、その文字の下にはさらに続きがあり、細かく「この扉をくぐるもの、一切の権限を棄てよ」と書き殴られている。
ダンテの神曲をもじったものであろうが、そんな本歌を普通の高校生が知っているはずなどないし、書かれている内容を見てしまえば近寄りもしないだろう。
一切の権限を棄てよ。
つまりは治外法権だ、この部屋は。
そして、他の在校生もそれの意味するところをよく知っているからこそ、滅多にこの場所に訪れなかった。
そのオカルト研究部部室に、現在五人の男女の息吹があった。
女子生徒が三人に、男子生徒が二人。男子のうちの一人が、教卓に両手を突いて何やら神妙な顔をしていた。位置関係から言って、部長だろう。
キチッと襟まで止めた学生服を着こなし、眼鏡をかけた少年。よく通った鼻筋に精悍な顔立ち、ぱっと見て優等生然としている。少年というよりは、もう少し年月を重ねた男の表情をしていた。
「さて諸君」
切れ長の瞳を視界の四人に向けて、市立深南高校オカルト研究部部長、高崎信長が口を開く。凄まじい名前に負けないくらいの威厳のある声だった。
「今年も新入生勧誘の季節が来た訳だが」
「Cの2」
「わ、沈没〜」
「…………」
ふと信長は言葉を切って、天井を見上げた。高校生ではどう足掻いても拭き切れない――どの道そんな場所を掃除する奴はいない――埃をまとったタイルをしばらく見つめてから、再び正面を向き直る。
「そこで、我がオカルト研究部略してオカ研にも当然と言えば当然のごとく、新たな部員を」
「Bの5〜」
「ハズレ。甘いわね」
信長は無言で、教卓の横にあったパイプ椅子を片手で持ち上げて、教室の中央で紙上海戦ゲームに勤しんでいた二人の女子生徒の片割れに投げ付けた。
ひゅっ。
ごがんっ!
「ぎゃああああっ! あたまっ、あたまぁぁっ!」
パイプ椅子の角が直撃したようで、命中した女子生徒はツインテールに結わえた髪を揺らしながらもんどり打っていた。
「騒ぐな、病気持ち」
「誰が病気持ちよ!?」
「喋んなエキノコックス。人が話してる時には目を逸らしてペーパーゲームやってろって小学校で教わったのか?」
「あ、あんた、あたしが狐憑きだからって好き勝手言いやがって……何であたしだけで天羽にはお咎めなしなのよ?」
「ツインテールだからじゃない?」
「そこっ! うるさいっ!」
後ろの席にいたもう一人の女子生徒に茶化されて、ツインテール少女は怒髪天を衝くという形容こそ相応しいくらい過敏に反応している。
「ピッピ、模範解答だな」
「殺すわよ!?」
信長がしみじみと首肯する。
「あのー、部長?」
「どうした、犬」
「……いいですけどね、別に」
恐る恐る手を上げた矢先に出鼻をくじかれた少年は、二年生の新藤良樹という。中肉中背の、どこにでもいそうな男子生徒だった。いわゆる「特徴がないのが特徴」といった男だ。もっとも、このオカ研においては特徴のない存在など皆無なのだが。
部長であり、三年生の高崎信長。
同じく三年生で、信長にピッピと呼ばれていた少女。本名、桐子・ピピニーデン。
二年生の新藤良樹。
そして先ほど信長に手痛い一撃を食らって呻いていたツインテールの草薙亜鳥羽と、彼女と海戦ゲームで勝負していたポニーテールの草薙天羽の双子姉妹、二年生。
この五人が、オカルト研究部の全貌だった。
「でだ、犬。何か?」
「あー、最初の話はどうなったんでしょう」
「……おお、そうだ。矮小なツインテールにありがたい下達を与えている場合ではない」
「矮小……」
ぷるぷる、と天羽はその細い肩を怒りで揺らしている。それでも言い返さないのは、口を開いても帰ってくるのはそれに倍する罵倒でしかないと分かっているからだろう。
「先ほども言ったように、先週からこの学校に新入生が新たに入ってきた」
「新しく入ってくるから新入生って言うんじゃないんですかー?」
「お前に発言権はない、黙れよポニーテール」
「うう……あとりちゃーん」
「よしよし……あいつはね、人の皮を被った悪魔なの。デビルなの。ディアーボなの。一般人は見るだけで目が腐って魂まで三界六道を永遠にさ迷い続けるから見ちゃ駄目よ」
「そこのツインテールは後で誰の想い出にも残らないくらいに痛めつけるのはよしとして。我がオカ研はどういう因果か、わずか五人しか在籍生徒がいない。おっと、四人とツインテールだったな、失敬失敬」
「ああああムカつくー!」
ばんばん、と机を叩くツインテール。が、信長はそれを涼風を受け流すかのようにきっぱりと無視していた。
「今でも戦力的には問題ないが、手駒は多いに越した事がない。そこでだ、今日から新入生勧誘が許可される事だし、無垢なる新入生をだまくらか――もとい、誠心誠意この部の素晴らしいところを伝えて興味を持って頂き、あわよくば仮入部までかこつけて部室に連れてくればこっちのもの、弱みを握って本入部まで持っていく、と」
「台詞が長い上に訂正した舌の根も乾かないうちに本音が出てるねー」
「ピッピ、うるさい」
「はーい」
どうやら信長、桐子には亜鳥のような暴挙はしないらしい。というより、亜鳥に対するリアクションだけが過剰なのだろう。
「そういう訳で、今から部長直々に勧誘に行くから待っていろ」
「あ、あんたが行く訳?」
「当然だ、そうやってお前達も連れてきたろうが。ああ、そこのコンパチツインズ。新入生懐柔の為にお茶でも淹れておけ」
「誰がコンパチか!? 頭部を挿げ替えただけでMkUとかVになったりすんのか!」
「あ、じゃあ私はMkV! メガキャノン〜」
「あんたは黙ってなさい!」
今が合唱コンクールなら亜鳥のその声量も強力な武器になっただろうが、放課後のこの時では周囲の人間に耳を塞がせる要因にしかならない。それは他の部員も既知のようで、信長が亜鳥を挑発するような台詞を吐いた次の瞬間には、みな一様に両手で鼓膜をガードするという光景が日常茶飯事になっていた。
「まあ、お茶は淹れておいてくれ。全員分な」
「お茶って言ったって、どこにあるのよ」
「また職員室の給湯室に忍び込んでくればいいだろう?」
「だから、そんな教職員にゾーンプレスでマークされるような生活にピリオドを打ちたいのよ、こっちは!」
再び激昂する亜鳥に、信長は心底哀れんだ瞳を向けた。その輝きは明日確実に死ぬ病人に同情しているような、そんな節がある。
「いいかツインテール」
「な、何よ」
「せっかく意気揚々として来てくれた前途洋々な一年生が、お茶も出さない部活に入ってどう思う? 『ああ、せっかく素晴らしい部長に出会えて充実した高校生活が過ごせると思ったのに、一コ上の先輩が客にお茶も出さないような生き物なんて、神様は何故にこんなツインテールをこの部にお招きになったのか、人生+−理論って本当にあるのね』とか心中穏やかでないに決まっているぞ、彼女は」
「ツインテールは差別用語か!?」
ばんばん、と本日幾度目かの猛抗議を机に叩き付ける亜鳥。
「ん? 信ちゃん信ちゃん」
ふと、剣呑な空気を裂くようにして桐子の声が風に流れてくる。
「何だ」
「今の、微妙に女の子言葉だったけど。それに彼女って?」
「ああ、もう決まってるんだ。勧誘すべき一年生はな」
まるで裏工作の果てに当選確実となった候補者のごとく、胸を張って威張る信長。
「部長さん、どうしてその子の事を知ってるんですかー?」
妙に間延びした声で天羽が尋ねる。この双子の姉は、妹の分まで忍耐力を吸い出して生まれたのではと思うくらいに何事にものほほんとしていた。逆に亜鳥は姉の分まで気の短さが備わっているようで、この二人はワンセットで数えられる感がある。
「我がネットワークを舐めるな。その女子の事は氏名、年齢、生年月日から家族構成、学歴、果てはスリーサイズまで……おっと、この数値は犯罪だから言えんな」
などと、何やらとても気まずい事を講釈している信長。なぜかは誰も知らないが、彼の情報収集能力はこの界隈はおろか日本でも有数のレベルだった。彼の言うネットワークの賜物だろうが、その実態は分厚いベールに包まれている。
「む、もうこんな時間だ。ツインテールの奇行に関わっている場合ではない」
「いい加減その言い方やめい!」
「それじゃ、しばらく待っているように」
「聞けよ人の話!」
これ以上ないくらい爽やかな笑みを浮かべて、信長は部室を出て行った。ああいう時の彼は、大抵は良からぬ事を考えているに決まっている。いや、本人にしてみればそれは良い事になるのだろうが。
甘いマスクと巧みな弁舌、そして非常識なまでの行動力と獲物を定めたら地の果てまで追い掛け回す執念。それが、ヴァルチャーの異名を持つ高崎信長だった。
「あの人って、毎回毎回何がそんなに楽しいんだろね」
あらぬ中空を見つめてぽつりと言葉を漏らす新藤良樹に、
「きっとエントロピーを増大させてるだけでも楽しいんじゃない、信ちゃんは」
枝毛がないか念入りに髪の毛を弄りながら、桐子・ピピニーデンは呑気に答えるのだった。
佐倉湊は悩んでいた。
目の前には、黒山の人だかり。時折、「テニス部に入りませんか」だの「野球部で一緒に汗を流さないか」だの、会話が漏れてくる。きっと新入生の勧誘だろう。そう言えば帰りのホームルームで担任が、上級生の過激な勧誘に気を付けろと言っていたのを少女は思い出した。
それ自体はいいとしても、困ったのはその人だかりで廊下が塞がれている事だ。
湊は十五歳にしては小柄すぎるほどの少女で、制服を変えれば道内のどの中学校でも入学式に潜伏できるだろう。無理をすれば電車も子供料金で利用可能かもしれない。
そんな華奢な彼女だから、局地的に人口密度が異様に高まっている廊下を通過しようにも、弾かれるのは目に見えている。
向こうへ行きたいのに進路には巨大な障害があり、湊はぴょんぴょんと意味もなく飛び跳ねて人込みの彼方を覗こうとした。その振動に合わせて、おさげがまるで小動物の尻尾のように上下して大変可愛らしい。
「キミキミ、コタツ同好会に入らないか?」
「え? あ、あの、遠慮します……」
個人的に活動内容が非常に気になる湊だったが、とりあえず丁重にお断りした。
その後も爪切り同好会、辻斬り同好会、アサシン部など、人が立ち往生しているのをいい事に次々と怪しげな部活の勧誘ばかり受ける。自分が押しに弱そうな体躯をしているからだろうか、と湊は苦悩した。
その、矢先だ。
「そこの少女」
「……?」
これだけ生徒の喧騒に包まれているにも関わらず、耳に混じり気なく入ってきた凛とした声。僻耳かとは思ったが湊は何となく周囲を窺ってみた。
ふと、人だかりから離れたところにいる一人の男子生徒と目が合った。
三年生、だろうか。
湊がそう思ったのは、その少年が少年と言えないような老成した立ち振る舞いと表情をしていたからだった。
そのまま、上級生と思しき生徒は一直線に湊の元へ歩いてくる。
湊の身長は140cmほどで、対してその男子はどう見積もっても頭二つ分は高い。なので、自然と見上げる形になってしまう。
前々からそうなのだ。実家の兄と向かい合う時もやはりこのように首が痛くなるような姿勢でないと相手の目を見る事ができない。別に目と目を合わせなくてもいいのだろうが、人の話を聞く時はそうしろと言うのが厳格な父親の口癖だった。
少年はただ、湊を注視している。これが世に言う下級生への「教育」なのだろうか。このまま人気のない体育館裏に連れ込まれて「おいジャンプしてみろよ」とか言われて、チャラチャラ音がしたら「金持ってんじゃねーか」と返されてカツアゲされたり、音がしなかったら「札持ってんじゃねーか」とかうそぶかれてどっちにしてもカツアゲされたり。斬った張ったの修羅場でもくぐり抜けられる自信はあったが、相手に怪我をさせてはまずいだろうし――
と、一人で悶々としていた湊だが、不意に少年の視線に気付いた。その先にあるのは、湊が持っている棒状のもの。布袋に入れられて紐でしっかりと縛られているそれは、ともすれば湊の身長と同じくらいの長さを誇っていた。
びく、とかすかに震えて、湊は反射的にそれを胸に抱いた。
「な、何かご用でしょうか……」
身を縮めて、どことなくリスやウサギなどのげっ歯類を思い浮かべるような態度。
「いや、何やらお困りのようだが、どうした?」
言われて、湊は一瞬きょとんとした。が、すぐさま持ち前の思考切り替えの早さで、現在の置かれている状況を思い出す。
そうだ、自分は部活勧誘の憂き目にあって進路妨害されているのだった。
「あ、えと。あの人達がいて向こうに行けないなぁ、って」
「ふむ……勧誘も度が過ぎると迷惑だな。全く、教員に注意された去年の教訓が活かされていないと見える」
眼鏡を直す少年の仕草は、いかにも優等生らしい雰囲気が滲み出ていた。それは湊も好感を持つ。真面目な人は好きだ。
「あ、そうなんです。だから迂回しようと思ったんですけど、まだこの学校の構造が分からなくて」
湊は筋金入りの方向音痴で、小学校の時の遠足で行った遊園地の迷路でいつまでもさ迷い続けた挙句、集合時間を大幅に遅れさせて先生の手を引かれて戻ってきたという逸話があった。翌日、あっさりと「方向音痴」という捻りも何もないあだ名を拝した事は彼女にとって忘れたい事実だ。
「そうだな、じゃあひとまず向こうへ抜けるか」
「え――ひゃっ!?」
予期せずに襲ってきた強烈な浮遊感に、あられもない声を上げる。危うく持っていたものを取り落としそうになって、慌ててまた胸元に引き寄せた。
そこでようやく、自分は少年に抱きかかえられている事に気付く。俗に言う「お姫様抱っこ」という奴で、完全に足が地面から離れていた。
「わっ、わわわ!?」
少し顔を傾けただけで、身近なところに上級生の顔がある。男の人にこんなに接近した経験は、兄と父親しかない。
「あ、のっ!」
「さあ行くぞ少女」
言うが早いか、少年は湊を担ぎ上げたまま、事もあろうに新入生獲得に鎬を削っている一団目掛けて突っ込んでいった。
「さあ、そこの烏合の衆、退いてくれないか。退いてくれるよな。退けよ。分かった、退かせてやろう。そこのバスケ部、来月から体育館を使えると思うなよ。茶道部、邪魔だ茶器割るぞ抹茶に粉ジュース混ぜるぞ」
最初こそ穏便な口調だったものの、次第に語勢に苛立ちが混じり始め、最後には実力行使――勧誘の生徒はおろか新入生まで蹴り倒し――しながら、モーゼの十戒さながらに人の波を掻き分けていくのだった。
「あ、あの……もう結構です……」
四階から三階まで少年に運ばれながら降りてきて、ようやく湊は控え目に声を漏らした。
「む、そうか」
一年生を示す赤いラインの上靴がリノリウムの廊下に接する。あれだけの密集地帯を中央突破しても湊はおろか少年まで衣服に乱れがないのは、ひとえに彼のナイト振りが徹底していたからだった。
つまり、接触した人間をすべからく蹴倒してきたのだ。第一印象の優等生という認識が瓦解し始めた気がして、湊は溜息をつく。
「ありがとうございました……」
運搬手段に問題はあったものの、とりあえず助けてもらったのだし、素直にお礼を言う。
「いや、何……ところで少女」
「はい?」
「部活動はやらないのか?」
せっかく高校生になって実家の束縛を逃れてきたのだ、年頃の娘らしく学生生活を満喫したいとは考えていた。部活動をやるにしても、馴染みのある剣道部もいいな、とか色々と画策していたのだが、先ほど少年が蹴りを入れていた集団の中に剣道部がいたのも事実だった。
「えと、まだ決まってないです」
「ならば当方に入らないか?」
「はい?」
「オカルト研究部、と言うのだが」
「オカ……」
結局はこの人も新入生の勧誘だった訳だ、と湊は得心した。同時に、目の前の上級生とオカルトという血生臭い単語がどうしても結び付かなくて戸惑う。
オカルトが何を指すのかは分からないが、それが妖怪変化の類だったのなら、湊にもそれなりに知識があった。もっともそれはある意味偏っているのだが。
「とりあえず見学してみないか?」
「え? あ、あの」
「ちょっとだけだ、手間は取らせない」
「えっと……」
「善は急げと言うしな、早速Let us goだ!」
「わっ、わわわわわぁっ!」
手首をぐいっと掴まれたかと思うと、またも不自然な浮揚感が湊の小さな身体を支配する。が、今度は抱き抱えられているのではなく、手を掴まれたまま高速で駆けずり回されて地面に足が付いていないのだった。
目まぐるしく後ろへ流れていく校内の景色に目を回しながら、湊はそれでもぼんやりと、助けてもらったお礼だからいいかなぁ、とか、どうして短縮系のLet'sじゃなくてわざわざLet usなんだろう律儀な人、なんて考えていたのだった。
その部屋に入った瞬間、違和感を覚える。耳が遠くなって体温が上昇するような感覚だった。まさかね、と思って湊は部室の中を見回す。
いたのは四人。見るからに自分より年上そうな人達だった。ツインテールの人にポニーテールの人、それにストレートの銀髪の人。染めている訳じゃなさそうで、顔立ちも日本人離れしていた。そして、教室の隅っこで風景と一体になっているように着席している男子。
ああいう髪型にしてみたいな、と湊は無意識に自分の髪を撫でる。今までは髪型なんかに気を使っている暇などなかったのだ。
「オカ研諸君! ついに我が方にも新入部員がやってきた!」
「あの、ちが――」
「おっと、自己紹介がまだだったな。オカルト研究部部長、高崎信長だ」
「あ……佐倉湊、です」
すごい名前の男の人だな、と思いつつも反射的に名を名乗ってしまう自分の受動的な姿勢が情けなかった。
「あそこにいるポニーテールが草薙天羽だ」
「はじめまして〜」
妙に間延びした声の人だった。隣にいる人に顔立ちがそっくりだが、姉妹だろうか。
「で、あのいかにも外人だと言わんばかりの女子は桐子・ピピニーデン」
「はーい。ピッピさんって呼んでねー」
桐子とピピニーデンってどっちも名前なんじゃないんですか、と言おうとしたが、なぜか危険信号が脳から発信されたので言葉を飲み込む。
「そして教室の隅で申し訳なさそうに座っている存在感のない男が……犬、お前の名前なんだっけ」
「……新藤良樹です。いいんですよ、いいんですけどね」
いじけているようだった。
「最後にあれが……ツインテールだ」
「イコールなのか、あたしとっ!」
ばん、と机を叩いて席を立ち、その先輩は激昂して消しゴムを投擲する。が、部長はその軌道が手から放たれる前に分かっていたかのごとく、瞼を閉じて軽々と避けていた。
「彼女らが、これから君と共に活動していく仲間だ」
「ま、まだ入部した訳じゃ」
「ノープロブレム。何も問題はない。文句を言う部員は等しく裏工作して留年させるし、他の部が君を狙おうものなら本校の七不思議が一新されるだろう」
ここが分水嶺だと思った。これ以上ここに身を置いていると、状況に流されるままに入部してしまいそうだ。
だから湊は少々強引な方法に出る事にした。
「あの――ごめんなさいっ!」
ぺこり、と深く一礼して、脇目も振らずに部室を後にする。
「少女! この狭い北海道、そんなに急いでどこへ行く!」
そんな部長の声が背中にかけられたが、それで彼女の足が止まる訳でもなかった。
誤算だった、とは思わない。
それが信長の認識だ。
「あーあ。やっぱり駄目だったじゃないの。部長が変人だと下の者も付いて来ないわねー」
「おいピッピ、そこなツインテールを殴れ」
「はいよー」
ばきっ!
「ぅをっ! 何しやがんのよ先輩!」
亜鳥が激怒すればするほど、桐子はケラケラと笑う。
「部長、どうするんですか。今年は新入部員ゼロ?」
「慌てるな犬。彼女は必ずここに戻ってくる。お前たちと違って律儀で品行方正な才女だからな。従って――」
うそぶき、ばん、と教卓を叩いて。
「――新入部員捕獲作戦、第二段階に移行する」
佐倉湊は悩んでいた。その足取りも重く、校門をくぐったその身体に吹き付ける風は春先だというのに寒く感じる。
「やっぱり、ちゃんと『入部しません』て言わなきゃ駄目かなぁ。一応、助けてもらったんだし」
相も変わらず棒状の物体を後生大事そうに胸に収めて、俯きがちに呟く少女。
「……うん、このままじゃ部長さんにも悪いし、戻ってちゃんと伝えようっと」
しっかり引っ掛かっていた。
続。